ほっぺた落ちる

食、語学、ドイツものがたり。

001 結婚は食バトル ードイツ朝食でドラフト開始

ドイツにもモーニングがある。パンやチーズや卵が大きなお皿に盛られていて、見た目にお洒落だなあといつも見惚れてしまう。

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ドイツに来て間もない頃、朝食をよく食べに行くカフェがあった。この朝ごはんは、バスケットいっぱいにパンが運ばれて来るし、ひとりでは食べ切れないので、1人分を旦那さんのナツさんと分けることにしていた。最初にジャンケンをして先攻後攻を決め、あとは交互に好きなものを食べていく方式で食べ合いっこしていたのだ。

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このとき、彼はいつも「ドラフト♪」と鼻歌を歌っていた。なぜ「♪」なのか。首を傾げだけれど、けっきょく楽しく食べていた。

 

小麦そのものの味がする香ばしいパンや濃厚なチーズ、苦味のある大人好みの野菜ルッコラ、みずみずしいトマトと色鮮やかなパプリカ、チーズの上にちょこんと乗ったマスカットなどなど、食べては幸せな気持ちになり大満足だったのに、つねにナツさんはにやりと笑っている。

 

この笑みの意味は、何度目かの朝食で理解した。今まで食べたことのないチーズがあることに気がついたのである。

 

それは小さなケーキの形をしていて、なめらかなチーズの地にナッツが散らしてある。よく見ると細かく切った果物も美しくくっついている。思わず手を伸ばした。

 

そのとき、ナツさんは明らかに、表情を変えた。ナツさんが、あのさ、などと気をそらす話題を提供する前に、私はとっとと謎のチーズを口に運んだ。

 

甘い。そしてこの上なく美味しい。

 

旦那は、同じものを選択するという私の習性を知っていて、このデザートチーズがいかに美味いかということをずっと言わずに、朝食ドラフトのたびに食べてたんである。

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私はナツさんをじっと見た。いやだってさドラフトだしとかゴニョゴニョ言っていた。知らぬが仏。早くドイツ語を習得しようという決意とともに、それからはドラフト時にも選り好みせず、いろんなものを食べるよう用心するようになった。食べ物の恨みはけっして消えない。